Canon kissX2 冷却改造

前書
 3年半ぶりにデジタルカメラの改造をすることにしました。
今回のカメラはkissX2を選びました。選ぶというかX4が販売されている今となっては珍しくないカメラです。カメラはkiriさんに譲ってもらいました。
 新たに改造が必要と思った理由はXに対してX2以降のA/D変換14bit処理に期待するところと、私の冷却DXに時おり現れる横縞に困っていること、輝星の周りに出るゴーストをなくす改造ができないかと思ったわけです。
 ただ、困難が予想されることはCMOS背面にX2以降に基盤がついたことです。これの問題を克服すれば改造が可能と思われ取り掛かることにしました。

 右の画像はCMOSを横から撮影した画像です。左側がCMOS。右側が基盤。その隙間は1.5mmほどしかありません。


材料
 今回用意した部品材料の一部ですが、
○ケース:TAKACHIのYM-90を冷却背面のケースに使いました。
○ペルチェ素子:秋月電商で購入した40×40×4.1mmの15.4V 6Aを使うことにしました。少し以前のものより能力が高く消費電流が気になります。
○ヒートシンクはソケット370の薄型CPU用のものを購入しました。銅製で効率はよさそうなのですが、結構重いです。

今回も断熱板として発砲塩ビを使うことにしました。

分解
 細かい分解手順については省略させてもらいます。(Fuumaさんのブログ参照ください)

 ただ、前部のカバーをはずすにはグリップのゴムシートをはずし隠れねじ1本をはずさなくてはいけません。背面の改造だけですので、上部と前面ははずさなくてもできないことはないのですが、大変作業性が悪くなります。

 今回の分解ではねじの管理をかんたんな図に貼りつけていく方法をとりました。

シャーシの加工と熱伝導板の製作
 まずはシャーシの加工が必要だと考え、赤○で囲んである部分を切除しました。
 この出っ張りは外部端子(AVとリモコンタイマーの端子基盤を固定するためのものでした。この基盤は移動が必要なので、この部分を切除しても問題にはならないと考えました。

 この部分を切除することによって、CMOSからペルチェ素子までダイレクトに伝熱板を引き出すことができます。 
   熱伝導板の加工ですが、材料はDXのときと同じように銅板と発砲塩ビを加工して作りました。

 銅板は前回は効率と強度を上げるために2mmを使用しましたが、X2の場合はCMOS背面1.5mmの制限のために1mm厚の銅板を使用しました。

 組み立てた写真になってしまいますが、銅板と基盤の間0.5mmの部分には除湿対策がされている厚紙を使用しました。遮熱塗装とか遮熱フィルムを検討しましたが、紙の方が断熱効果が高いと判断しました。
今回もう一つ難しく思えたのは基盤裏とCMOSとのたこ足のようにつながる結線です。銅板と完全に絶縁をしないと確実にショートをしてしまいます。

 DXのときはCMOSのフレーム枠を自作しましたが、加工の精度でスケアリングに狂いが大きく出てきました。なので、今回は元のフレームを加工して使うようにしました。

結露対策
 今回、CMOS前面にフィルターを付けないつもりなので、ヒーターで温め結露をとる方法はできません。
 ヒーターより結露には有効な乾燥空気をふきいれることにしました。

 吹きいれる場所はCMOSとシャッターの間が一番有効と考えて、観賞魚用のぶくぶくの細いチューブを廻し入れることにしました。
 チューブの固定にはシリコンを使い、取り廻しは基盤の下を通すようにしています。場所が結構限られていますが、基盤の下は結構隙間があいているんです。

 ただ、乾燥空気はCMOSを凍らせてしまうと全く効き目がありません。ですから、冷却前から乾燥空気を送り込み、湿度を下げてから冷却をするように心掛けています。

基盤の移動
 DXと同様にリモコンシャッターとAV端子が独立した基盤となっています。
 冷却改造をするときにこの部分が独立してくれているから、伝熱板を通すことができると言っていいでしょうね。

 上記で書いてようにこの基盤を留めるステイは切り落してしまっているので、端子を2個はずしてしまい、できるだけ平らな状態にして伝熱板の上に貼りつけることにしました。

 黄色と赤はリモコンシャッターの配線です。黒はGND。

仮組み立てと作動確認
 背面ボディをはめ、作動確認をして見ることにしました。
 わたしは信心深くはないのですが、kissDを改造した頃から、電池をいれて電源を入れる前に合掌して拝みます。

 見事「初期設定画面が出たー。」と書けば、順調な工作だと思っていただけるでしょうが、実は異変が起こりました。

 まず、合掌する間もなく電池を入れふたをした瞬間連続シャッターが数回おりるのです。そして、もうこのときは合掌もしないで電源を入れるとまた、連独シャッターが数回おりて恐怖の「ERROR99」が表れたのです。電池を差し替えても、どうしても連続シャッターと99は直りませんでした。(めったに見られない「ERROR99」の写真はありません。動揺動揺)

 基盤の配線、接触個所、一番疑っていたリモコンシャッターの基盤。
どこを調べても異常はありません。
 途方に暮れること3日間。
 その日は撮影仲間が集まり、X2とX4を分解改造する日でした。
 このときにちょうどX2を分解するので、左のシャッターユニット部分の写真を撮らせてもらいました。
 この写真がシャッターの初期位置?なのです。
 考えたのはシャッターの初期位置というものがあり、スタート位置が狂ったままシャッターを切るとエラーの状態になるように思ったのです。

 ズバリ正解でした。上の写真はそのときの喜びの初期設定画面です。
 結局悪いのは私。分解したときに「このギアと小さいモーターでシャッターとミラーをコントロールしているのか!」と少し回してしまったのです。
 ERRORが解決をして、冷却部分も組み立てをすることにしました。
 今回のヒートシンクは板ばねをテンションとして2点止めになっていましたので、4点ねじ止めに変えることにしました。

 ペルチェ素子の両面には熱伝導用のシリコングリスをCPUを組むときと同じように薄くのばし貼りつけることにしました。
 また、この4点ねじは締め過ぎるとペルチェを割ってしまうし、均等に密着させるためにねじにバネを組んで圧力をかけるように変更をしました。

 しかし、この銅製のヒートシンクは頼もしいけど、重いなあ。

検証(冷却能力)
 はんだ付けを完成する前に一度冷却能力を検証することにしました。

 室温は21℃、湿度は35%程度、電源は12Vでおこないました。
2個の温度計は
 左側がCMOSの近くにセンサーを組み込みました。CMOSの背面に貼りつけたいところですが、スペースがありません。
 右側はヒートシンクの隙間に挟み込んでの検証です。

 電流はペルチェ素子に流す分と冷却ファンの合計電流になります。
ファン自体は6cmの薄型です。結構回転数は速く、音もうるさいですね。
 ファンの消費電流は0.25Aぐらいです。
 左のグラフは電源を入れてから1分おきの10分間の温度変化と使用電流のものです。

 以前に製作したDXよりペルチェの能力とヒートシンクの能力をあげたせいで、10分間で20℃を冷却することができました。また、ヒートシンクの能力が高く、外気温に対して15℃程度しか上がりません。以前のDXでは60℃程度(外気温+30℃まで上昇しましたから安心です。

 ただ、誤算だったのは消費電力が3Aを切ってくれると思っていたのですが、負荷をかけると0.5Aが増えてしまいました。

検証(ダークノイズ)
 冷却をする前に室温20℃のダークファイルを撮りました。

 あら?結果は左のとおりです。
 まるでアンプノイズのようなノイズが左上に出ているんです。確かめるために段ボールの中にいれて撮影をしたら、普段のダークファイルが撮影できます。と、言うことはどこからかカメラ内に光が漏れていることになります。
 誰もが疑うと思う伝熱板をカメラから引き出している部分の隙間が怪しいと黒いクッション材を詰めましたが、効果は全くありません。

 画像は左上ということは、CMOSを裏から見て右下からかすかに光が入っていることになります。
 ピントきました。乾燥空気の吹き出し口です。
 試しに乾燥空気の入り口を指でふさぐだけでかなり左上の光は写らなくなりました。この光、ぶくぶく用の透明チューブを光ファイバーのように曲がっても光らせたようです。
 解決方法はケース内の途中一部を黒いチューブに変え解決しました。
 いろいろ問題が起きます。
 右の画像はいっぱいいっぱいレベルを挟んだ中央画像です。
上がiso400 10分 20℃のダーク画像です。
下がiso400 10分 -2℃のダーク画像です。

 あきらかに滑らかになっていますね。

 冷却を続けながらインターバル20秒で5枚を撮影しました。
−2℃からの撮影で1枚終了時に0.6℃温度が上昇し、2枚目終了時にさらに0.4℃上昇しました。それ以降は温度が安定をしました。

 しかし、全体を見ると2本ほどうっすらと太くて暗めの横縞がはいっています。DXのときもそうでしたが、やはりこの横縞に悩まされるのでしょうか。


完成
 一応完成となります。テストをしていませんので、スケアリングの狂いは少しでしょうが出るでしょうね。また、今回IRCを完全に外していますので、赤外カットフィルターの装着場所にも悩むことになりそうです。

 今回、ペルテェ素子への電源スイッチとパイロットランプを付けました。この1月に護摩壇で撮影をした時の気温が−12℃でした。機材もかわいそうな状態でしたが、バッテリーは悲鳴を上げていたでしょうね。
 外気温が−12℃だとするとファンだけを回しておけばCMOSも−12℃になっています。
 ということで冬場にはバッテリーのことも考えて外気温と同じ温度で撮影するようにしたいと思います。
 右はkiriさんにカメラと一緒に付けていただいたACDC電源のカプラーを加工なしで配線を出しました。
 カール線はよく売られている携帯充電機の線を使いました。

赤外カットフィルターの装着
 左の画像はピントだしのときのiso1600 30秒の画像です。
 ほぼ二重にゴーストが出ています。
 最近よっちゃんの画像を見ているとこの輝星の周りに出るフレアゴースト?がとても気なってきていたのです。よっちゃんの使っているフィルターでは全く出ません。LRGBともに出ません。
 どうも、このゴーストはCMOSと干渉フィルターの間を往復反射して出ると聞きます。ということは平面と平面だからはっきりとしたゴーストになるようです。

 今回試したいことは、CMOSの前にはIRCフィルターを付けないで、補正レンズの前?斜鏡側に取り付けようと考えました。
 わたしが思うに、平面と平面の往復反射で起こるのなら、補正レンズの前だと補正レンズの曲面が間にあることになるからです。
 装着するIRCは52mmのフィルター枠のものをつくることにしました。
 わたしのもっている望遠鏡のドローチューブの内径はすべて60mmになっています。ですから、補正レンズのけられも考えて52mm枠が適当と考えました。
 今回使うIRCはバーダーのUV/IR-CUT/L50.4mmを用意しました。このフィルターのゴーストの出方は分かりませんが、この大きさとしては安価に手に入ります。
 これを52mmフィルター枠にいれるにはちょうどいい大きさなのですが、厚みが3mmもあります。この厚みを収めるにはクローズアップレンズの枠が適当だと考え、MARUMIのものを購入してふうまさんから借りたかに目で交換をしました。
 MARUMIのリングねじは接着でロックされていないため交換にはいいのですが、Kenkoのリングねじはそう簡単に外れません。
 画像左はParksに使っているMPCCに48mm− 52mmのステップアップリングを。

 画像右はε160の補正レンズです。  53mm-52mmの変換リングを光映舎から購入をして付けました。

 画像にはありませんが、VC200Lのレデューサの押さえリングがはずれず、苦戦中。この内ねじは53mmだと思うんだけどな。
 月が出てくる前のわずかな時間にテスト撮影をしました。
撮影データは上記の画像と同じです。撮影場所は条件が悪いです。

 ご覧のとおり二重のゴーストを退治することができました。
 でも、今度はたくさんのとげとげが気になってきましたね。これはどこが原因で現れるのでしょうか?
 主鏡のマスクの精度に問題があるのでしょうか?

 また課題を残すことになりました。
もう少しで終わります。

2011年1月