Canon kissDX 冷却改造

全体
 kissDを新品で購入して、赤外カットフィルターを交換してから、3代目を所有することになりました。
今回は赤外カットフィルターの交換だけでなく、冷却化もできればと構想を立てました。自作パソコンにはまっていた頃にCPUをペルテェ素子で冷やし、クロックアップにはまっていました。このことは発想のもとにあったのですが、CMOSの裏に直接取り付けることしか思いつかず、残念をしていました。しかし、韓国のLeeさんのホームページを見て今回大きく感化されました。また、詳しい製造方法を公開していただいて感謝しています。
必要性
 右の写真は撮影でよく使うISO800 900秒のダークファイルのベイヤー配列の比較画像です。
 DNの赤外カットフィルターを改造したときに、CMOSの裏に温度センサーを貼り付けて撮影ごとに記録をとってきました。これ、ダークファイルの使いまわしのためです。
 このときに、分かったことなのですが、露出15分ほどをかけていると外気温+7℃は確実にCMOSの温度が上がります。また、CMOSの温度が10℃ぐらいになるとかなり画像が滑らかになります。それはそうですよね。右の輝点ノイズ分が引かれ情報が抜けてしまいますからね。

 そこで、CMOSの冷却温度の目標は護摩壇での撮影を考えると、外気温は夏場では約20℃として、この状態での撮影で+7℃のCMOS27℃になり、ということは外気温-17℃という冷却能力が必要になります。
ううう・・・。ハードルは高いな。


材料
 コンパクトにしようと、材料をそろえてみました。(性能は二の次)
○銅板2mm。 :ちょっと欲張りすぎか、この厚さのスペースが取れるか?
○発泡塩ビ板 :1mm2mmを用意。空気が入っているため断熱に効果ありそう。
○ペルチェ素子 :17V4Aのものを選んだのですが、12Vでの能力は?
○ヒートシンク :CPU用のもの。50mm角の薄型のものにしました。
○温度センサー :フィルム状のもの。
○USBミニB :基盤付きのものを用意しました。
○サーモスタット :50℃でoffになるタイプを探しました。
○ケース :50×50mmのものがほしかったのですが、50×60mmのもの。
○赤外カットフィルター :光映舎の35.5mm*1mmのIRCが安かった。

課題
 今の時点での課題は3つあります。
1.IRC:もともとDN用の赤外カットフィルターを注文しようと思っていたのですが、「特価・・・数量限定」この言葉に弱んですよね。フィルター枠を使わないつもりだったので、これを買ってしまいました。ただ、1mmという厚さが問題です。1.5mmCMOS面を前に出す方法はどうしよう・・・。
2.IRCの結露:周りにヒーターを巻いてあたためるか、乾燥空気を送るか、まだ決めかねています。乾燥空気の用意がありますので、Tリング横から送り込むことができそうです。でも問題が・・・。
  ○レデューサによっては送り込めない。
  ○シャーターを開けているときしか効果が期待できない。
  ○ほこりが入らないか。
3.消費電力:ペルチェ素子を規定電圧で使用すると4Aを消費してしまいます。今以上にバッテリーを増やすのは難しく、3〜2Aの使用に押さえたい。

まだまだ、困難が待っていそうです。

分解
 今回のDXの分解は背面、前面、上部(ずらす程度)のケースカバーをはずして分解を進めました。
 作りは1世代前のDNとよく似た作りでした。ただ、クリーニング機能が付いているためCMOSの前面が複雑になっていること。その部分が収まるようにシャッター部分のシャーシが大きく開いていることがDNとの違いのように思います。このシャーシの部分が大きく開いていることをうまく利用したいと思っています。

 今回の分解で3世代目になりますが、Dの時には背面カバーをはずすのに1つの隠しねじを見つけるのに苦労しました。DNの時はいろいろなタイプのカプラーのはずし方に悩みました。
 DXで悩んだのは右の赤丸で囲んだカプラーです。他の多くは跳ね上げるタイプなのですが、この白いカプラーはどのようにフラットケーブルを押さえているのか見る限り分かりません。結局、ケーブルをそのまま抜くという方法で抜けたのですが、組み立てるときにうまくはめられるでしょうか。

詳しい分解方法はfuumaさんのホームページを見てください。DNですが、ほぼ同じ要領で分解ができます。

熱伝導板の製作
 製作に熱中してしまい製作途中の撮影を忘れてしまいました。
 CMOSの縦幅は28mm。ペルテェ素子は30mmなので途中で銅板の幅を変えています。
 断熱と結露防止に発泡塩ビ板を使いましたが、なかなかいいようです。カッターできれいに工作できるし、塩ビ用の接着剤で即効よく引っ付いてくれます。
 このヒートシンクは4つのねじにバネが付いており、適度なテンションでペルテェを押さえてくれます。
  評価
 室温29℃、湿度50%での実験ですが、12Vを通電させて5分ほどで12℃近くまで下がり安定します。
 使用電流の方は12Vで約2.2Aが流れます。まずまずでしょうか。
 むき出しの銅板の方はすぐに結露が始まりましたが、塩ビ板の方は少ないです。

課題
 安全のため50℃で切れるサーモスタットをヒートシンクにつけようと思っていたのですが、ヒートシンクの温度上昇が激しくつけれない状態です。ヒートシンクの容量不足です。
 塩ビ板の結露は少ないとは言え、時間とともに確実に結露をします。隙間に余裕があれば2層にしてみます。

IRCの装着と結露防止
 IRCの装着
 IRCとCMOSの間隔をどうするか実験をして見ました。輝星の周りにできるゴーストのことを考えると、べたっと引っ付けた方がいいので試してみると、すごい結露です。直接IRCが冷やされてしまいますから、当然のことでしょうか。
 結局、断熱と空気層を確保するためにCMOSとIRCの間に0.5mmのクッション材はさむことにしました。
結露防止
 結露防止のために乾燥空気を利用しようと考えていたのですが、上記「課題」に書いたような理由でヒーターにすることにしました。

ヒーターの製作
 ヒーターには共立電子で買ったフィルムヒーターを切って使うことにしました。ここで問題になったのは

1.温度の管理
 12Vの入力電源1本で管理しようとしても温度が上がりすぎます。かといって、可変抵抗を入れると発熱は激しいし、少しボリュームを動かすだけで高熱になります。結局、携帯の車充電器5Vを買ってきて、セメント抵抗15Ωを直列につなぎ約40度に安定させました。

2.フィルムヒーターの加工
 このフィルムヒーターと導線の接続は半田ではできません。薄く小さくかしめるものはと探したのですが思うようなものがなく、ホッチキスでかしめることにしました。しっかりかしめないと接触不良な部分から高温に発熱をします。

基盤の移動
 リモートシャッターとAV出力端子が付いている基盤を移動しなくてはなりません。 はじめは基盤ごと外付けケースに移動しようと思ったのですが、メイン基盤へのケーブルは若干短く残念しました。
 AV出力端子は4箇所半田付けされています。端子の数が3箇所ですがアース部分が2個共通になっています。プラグの抜き差しで切り替わるものではありません。
リモートシャッター端子は3箇所の半田付けで問題ありません。


 この基盤を収める場所ですが、LEEさんのされている場所には入らず、そのフレームとケースの間に移動することに決めました。
 AV出力端子は必要ないので取り外し、リモートシャッター端子は取り外し3線で半田付けをして、収縮チューブに入れて絶縁をして準備をしました。

 この場所に入れるには余裕はなく、プラスチックケースと基盤を切ることになりました。また、横カバーも切っています。

組み立て
まずはCOMSの付いた熱伝導板を慎重に固定しなくてはいけません。とは言ってももとの精度を保つのは難しいでしょうね。

CMOSは3点で支持されています。もとのフレームを使うと精度は保たれそうなのですが、スペースに余裕がありません。結局、1点は伝導板から直接固定し、後2点は1mmのフレームを作りました。計算上ではもとの精度のままですが、机の上と伝導板の上との水平具合を縦横にして比べてみました。
3枚のスペーサー(真鍮は0.2mm・銅は0.3mm)をもとに位置に挟んで問題はなさそうです。
あと、固定場所はミニ基盤をとめていた2箇所です。スペーサー(ねじの座金を重ねる)を入れて1.7mmのねじで固定しています。
後は、裏の断熱板を固定し、メイン基盤にケーブルを接続しました。心配していた白いカプラーもそのまま挿すことができました。
スペースにはほとんど余裕がなくすっきり入りました。
ここで、もう一度CMOS固定部からのスペースを計算してみました。
前断熱板2mm + 銅板2mm + 後断熱板1mm 計5mm
はじめの採寸では6mmはあると思っていたのですが、測り方が甘かったようです。後ろに1mm2枚の断熱板を張りたかったのですが、1枚に断念します。

しかし、外付けケースにはたくさんのケーブルが入ってきています。
これも数えてみました。
ペルテェ素子2本 + ファン2本 + ヒーター2本 + 温度センサー2本 + 
リモコンシャッター3本 + USB4本    合計15本 ふーーー。

外付けケースと検証
 ケース内に基盤と端子をパズルのように配置を考え、外側側面に端子を配置することにしました。

検証
 電源と温度センサーを端子に差込みカメラに電源を入れていない状態で検証をして見ました。

外気温28.5℃ 湿度約60% 電圧11.5V
   時間  CMOS裏温度  ヒートシンク内部温度 電流
    1分    21.0℃        48.0℃      2.2A
    2分    18.2℃        52.1℃      2.0A
    3分    17.5℃        53.5℃      1.8A
    4分    16.5℃        53.9℃      1.8A
    5分    15.5℃        53.2℃      1.8A
    6分    14.8℃        52.3℃      1.8A

 ヒーターの温度も適切のようで曇りはありません。ヒーターを使用するとCMOS裏で2℃ほど温度が上昇してしまいます。
 しかし、うれしいことは総電流が1.8Aは助かります。
 そこで調子に乗り、電圧を15V電流2.3Aにあげると10℃近くまで下がって行きます。

再度検証
 1時間ほど冷却を続け、IRCの結露の具合を見ました。ヒーターの効果があるようで結露はしていません。しかし、カメラ全体が冷えています。
もう一度後ろカバーをはずして中の結露の具合を見ましたが、基盤等の結露はないようです。
気休めかも知れませんが、小さい乾燥剤を入れておくことにしました。
 電源を入れなおしたときにエラーメッセージが出て、あわてました。
 原因はセンサークリーニングのエラーメッセージのようです。初期設定が自動クリーニングになっていますのでoffにすればこのメッセージはでなくなります。

後記
 熱伝導板の密閉をよりきちんとし、ペルテェ素子背面の断熱もより確保しました。その結果、以前のテストに比べ2℃のセンサー温度が下がりました。

 電源は5V〜20Vの可変電源ですので、いつもCMOSの温度を一定にすることができそうです。そうなるとダークファイルを使いまわすことができるようになります。

 反省点としては、ヒートシンクとファンはもう一回り容量の大きなものの方が効率がよさそうです。また、USBの端子ははずさない方が無難です。基盤をはがす恐れがあるし、かなり難しい半田付けの技術が必要です。

 実践で滑らかな画像が手に入ればいいな。
 なかなか晴れてくれる夜がなく、テスト撮影もままなりませんでしたが、護摩壇での撮影結果は右のようなものでした。
 DNとDXの機種の違いはありますが、ともに外気温は20℃ほどでの結果です。
 ノイズののりは大幅に違い冬の寒いころの撮影画像程度が得られました。
 テスト撮影に行った護摩壇は晴れていましたが、時折雲が広がってくるあまりよくない条件でした。外気温は20℃。湿度は高く機材はべとべとに夜露が降りる状態でした。
 電源12Vを入れて冷却が安定するまで約3分で7℃になりました。
 ISO800_20分の撮影画像がパソコンにプレビューされてきたときに、まず思ったのは「ISOを間違ったのではないか」と勘違いするほど暗い画像でした。20分の露出時間は使ったことがなく、もっと明るい画像を期待していたのです。でも、画像を拡大してみるととても滑らかな画像でした。
 やはり効果は大きいようです。
 左の画像は3枚コンポジットした画像です。フラット処理はしていますが、ダークファイル処理をしていません。
 それから、1時間ほど撮影を続けても、センサー温度は0.3℃ほど上がる程度でした。これはすごいですね。DNのころは確実に7℃ほど温度が上昇しましたから驚きです。また、消費電流はすべてで24V3.3Aを消費しています。8時間は難しいかもしれません。
 雲の通過はあるものの順調にカメラは作動していましたが、心配していた問題が起こりました。
 カメラを回転させるときに、試しにカメラマウントをはずし外気を入れて撮影をしたのです。それまで、コマコレクターを付けていましたから、IRCは外気とほとんど触れていなかったのです。マウントをはずし外気と触れさすことにより、それ以降画像の中心部の輝星がにじんで写るようになりました。時間がたってもこの状態は悪くはなりませんが、続きました。
 やはり問題はIRCの結露です。もう少し、ヒーターの能力を高めておけばよかった。安全に可変抵抗を入れれないか考えて見ます。
 実は、カメラと冷却ユニットの配線のために穴を開けているのですが、その穴にぶくぶく用のニップルを差し込んでいました。もしものときに鏡筒用の乾燥空気を入れてみようと考えていました。
 効果はすごいですね。1分もしないうちにカメラ内部が乾燥したようで、曇りがなくなってしまいました。また、コマコレクターで外気と遮断してくれているおかげで、それ以降乾燥空気用のポンプを止めても曇ってきませんでした。
 やはり、乾燥空気のほうが効果が高いですね。

2008年8月
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